エックハルト・トール氏は、現代を代表するスピリチュアルな指導者です。
彼の思想の根幹は、「今に生きる」というメッセージであり、過去や未来に囚われず、現在の瞬間に意識を集中することの大切さを説いています。
トール氏は、現在も自らの体験を通じて得た教えを、著作や講演活動を通じて広めています。
悟りのきっかけ
トール氏の人生を根底から変えたのは、29歳の時に訪れた強烈な精神的な危機と、その後の目覚めの体験でした。
彼の頭の中で「こんな自分と生きていくなんてまっぴらごめんだ」という思考が回っていたとき、彼は突然、妙なことに気づきました。
「自分はひとりなのか、それともふたりなのか?」
「こんな自分」と「生きていくのが嫌だと思っているもう一人の自分」が存在するとすれば、二人の自分がいることになります。
彼はこのうちの一人がきっと本当の自分なのだ、と直感しました。
その瞬間、彼は頭の中で呟いていた独り言が「狂気に陥ってしまう」という奇妙な感覚に気づきます。
彼の意識はしっかりとしていたものの、思考は無の状態だったのです。
エネルギーの渦と抵抗の放棄
次の瞬間、トール氏はまるで竜巻のような凄まじいエネルギーの渦に引き寄せられ、恐怖で震え始めました。
そのとき、「抵抗してはなりません」という囁きが胸に飛び込んできました。
彼が観念してこのエネルギーの渦に身を委ねると、恐れは消え去り、彼は見る見るうちにその中に吸い込まれていきました。
その後に何が起こったかは、まるっきり記憶にないといいます。
意識の変容と世界への再認識
翌朝、彼は小鳥のさえずりに目を覚ましましたが、それはまるで生まれて初めて聞くかのように美しいさえずりでした。
目を開けると、力強い朝日が無限な何かであることを知っており、「この温かい光は愛そのものなんだ」 と感じました。
彼の目には涙が溢れていました。
普段見慣れているはずの部屋が、それまでその本当の姿を見ていなかったことに気づき、目に映るすべてのものが新鮮で、生まれたばかりのように見えました。
手当たり次第に、鉛筆や空の瓶などあらゆるものを拾い上げましたが、あらゆるものに宿る生命とその美しさに、ただただ驚くばかりだったといいます。
この体験は、思考と気づきの分離を意味する「目覚め」であり、「悟りとは、苦しみの終わりである」 という境地に至った瞬間でした。
現在の活動と教え
悟りの後、トール氏は自身の意識を世界に伝える活動を続けています。
彼の著書(『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』、『ニュー・アース』など)は、読者の頭に新しい情報を加えることではなく、意識を変化させること、すなわち目覚めさせることを目的とする「ツール」であると位置づけられています。
彼は、人類の集合的な意識が抱える「機能不全(狂気)」を乗り越えるためには、意識を変えることが必須であり、内なる目的(目覚めて、目覚めたままでいること)の達成が最も重要であると強調しています。
哲学的・霊的な立場
トール氏の思想は、仏教の「無常」や「執着からの解放」、そして「マインドフルネス」とも共通する要素が多くあります。
また、彼は「神」という言葉が誤解され、固定観念(白い髭を生やした老人など)を抱かせる窮屈な言葉になってしまったため、頻繁には使用しません。
代わりに、「大いなる存在(ビーイング)」 や 「意識(アウェアネス)」 といった、目には見えず、決して滅びることのない、人間の名前や外見を超えた「本当の自分」を指す言葉を使用します。



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