私たちが日々感じる苦しみ、不安、後悔の多くは、外部の出来事そのものによって引き起こされているのではありません。
エックハルト・トールによれば、苦しみの根本的な原因は、私たちが「時間」という思考の幻想に囚われていることにあります。
時間が作り出す苦しみ
ほとんどの人は、過去によって条件付けられた偽りの自己(エゴ)の枠を超えられないまま、自らが作る思考という檻の中で人生の大半を過ごしています。
思考は常に、「もっとよくなりたい」「あの時こうすれば」 というように、過去と未来を行き来しています。
時間の中にいる限り、苦しみは終わらない
人生が今この瞬間でなかった時など、これまでに絶対にありませんでした。
しかし、私たちは時間を貴重なものだと考え、過去と未来に焦点を当てるほど、最も尊い今を見失ってしまいます。
トールが説くように、苦しみの本質は、出来事ではなく時間へのとらわれにあり、時間の中にいる限り、思考が絶えず苦しみをこらえている状態となります。
「いま」にいないとき、心はいつも不安定になる
思考は常に過去や未来に結びついていて、めったに現在に留まることがありません。
この時間の幻想(心理的時間)に囚われていると、心はいつも不安定になります。
エゴ(偽りの自己)は欠乏感の上に成り立っているため、時間の中で常に「まだ十分ではない」「足りない」という感覚を生み出し、未来に満足感や救済を求めようとします。
「時計時間」と「心理的時間」の違いを知る
トールは、私たちが日常的に使う「時間」を二種類に分けて考えます。
時計時間(Clock Time)とは?
時計時間とは、現実的な生活のために使う、予定やスケジュール、過去の記録などです。
例えば、約束を守るためや、旅の計画を立てるために必要な物理的な目的のための時間です。
時計時間は生活をしていくことや過去の経験から学び、未来の目標を設定するために不可欠な「道具」であり、人生を機能させるために必要です。
心理的時間(Psychological Time)とは?
心理的時間とは、心が過去に縛られたり、未来を不安がったりするといった、心が時間にとらわれた状態を指します。
これはエゴの拠り所であり、あらゆる苦しみ、ストレス、ネガティブ性の根源となり、心が「いまという瞬間」と調和せずに生きる時間です。
なぜ心理的時間は苦しみを生むのか
思考が「いま」にいられない心理的時間は、エゴそのものの生命線です。
エゴは「いま」という時間のない次元では存在することができません。
エゴは、過去の物語(「私はこういう人間だ」)と未来への投影(「あれが手に入れば幸せになれる」)にしがみつくことでしか自己を維持できないのです。
思考は常に、絶えず不足感、不安、後悔といったネガティブな感情を再生産します。
心理的時間は、私たちが本来持つ無限の創造力である「いまのパワー」に蓋をしてしまうのです。
過去への後悔が続くとき、心の中で起きていること
「過去の自分」を責める思考のループ
過去に起こった出来事そのものがあなたを苦しめているのではありません。
苦しみを維持しているのは、「あの時こうすれば」という反芻や、過去の過失を繰り返し思い返し、それにとらわれ続ける思考のループです。
この思考は、ただ「いま」を浪費しているに過ぎません。
ペインボディが過去を“再生”している
感情的な痛みには、「心と体に生き続けている過去の経験による痛み」 があります。
これがエックハルト・トールが提唱するペインボディ(痛みの身体)で、感情的に辛い体験を糧とし、ネガティブな思考によって肥大化し、似た出来事を通じて過去の痛みを再び活性化させます。
過去は記憶の中にしか存在しない
トールは、過去はもはや存在せず、思考の中にイメージとして残っているだけなのだと語ります。
過去の痛みは「いま」思い返し、感情的に反応しているから苦しいのであり、過去は“いま”の中にしか存在しない という事実に気づくことが、解放の第一歩です。
未来への不安が止まらない理由
「まだ起きていないこと」に心が支配される
不安のほとんどは、未来の出来事そのものが私たちを不安にさせているのではなく、あなたの思考が未来を想像し、そのイメージに感情が反応しているため生じます。
心は「もし失敗したら」「うまくいかなかったら」と、まだ起きていない未来の物語をつくり、それに支配されるのです。
思考は安全を求めて不安をつくり出す
エゴは常に「生き延びる」ことを第一の目的にしているため、未来に依存しています。
思考は、未知のものはコントロールが効かないため危険だと感じ、安全を求めて未来に焦点を当てますが、この未来へのしがみつきこそが恐れの原因となります。
不安を消すのは「未来の解決」ではなく「今への気づき」
恐れや不安は、「いま」には存在しません。
なぜなら、不安は未来という思考の幻想によって生まれるからです。
意識を“いま”に戻し、「いまこの瞬間、どんな問題があるだろうか?」と自問すれば、多くの場合、問題は存在しないことに気づきます。
意識が「いま」に集中しているとき、不安は存在できなくなるのです。
「時間から自由になる」とはどういうことか
時間から自由になることは、社会的なルールや時計時間を無視することではありません。
それは、心理的な時間から解放されることを意味します。
時計時間は使う、心理的時間には使われない
未来のために具体的に計画を立てることは必要ですが、そこに不安や心配を持ち込む必要はありません。
未来に意識を奪われて「いま」が犠牲になるのを避け、未来の予定を立てる行為を「いま」の行為として行います。
結果への執着を手放し、いまを土台にして未来を計画することは健全な行為です。
「いま」に根ざした行動が心を安定させる
いま出来ることだけに集中すると、未来は自然に整っていきます。
行動は、過去の経験によるリアクションではなく、「いまに在る」意識である洞察力によるものになります。
その時、あなたの行動には意識の力が加わり、その質の高さによって、未来の成功は決まるのです。
人生とは“今”が連なったもの
「人生とは“いま”です」。
私たちにとって、「いまこの瞬間」だけが与えられたすべてであり、永遠の今こそが、私たちの人生の全てが繰り広げられる唯一の現実です。
未来を変える最善の方法は、“いま”の意識を変えることなのです。
過去も未来も「今の意識」の中にある
時間に支配されると苦しみが生まれますが、私たちが時間の幻想(心理的時間)を手放し、時間を意識の中に取り戻せば、自由が訪れます。
人生とは、外部的な状況に関わらず、内側の最も奥深いところで感じられる大いなる存在そのものであり、それはすでに完全無欠です。
この「大いなる存在」と一つになることこそがさとりです。
私たちは、いまに在ることによって、思考や感情の雑音から解放され、心の奥底にある静けさと平和を体験するのです。
「あなたの人生は常に“いま”しかない。」
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